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【コラム】当院における猫の慢性腎臓病の治療

  
今回は、当院における猫の慢性腎臓病治療について説明します(一般的な話はこちらをお読みください)。
   
   

重症度について

重症度によって治療法が変わります。一般的なステージ分類もありますが、わかりにくいのでここでは以下のように分けて考えます。
   
軽症:多飲多尿があるけれども全身状態はまだ悪くなっていない段階
   
重症:多飲多尿が続いていてさらに食欲・体重が落ちてきた段階
   
   

軽症例の治療法

軽症のうちに見つかるパターンとしては、「健康診断を行った」「飲水量が増えてきたので腎臓病を疑って検査を行った」「他の病気(嘔吐、下痢など)になった時に検査を行った」などの状況が挙げられます。
   
治療の基本は「食事療法」です。また、「高血圧」「タンパク尿」「高リン血症」「低カリウム血症」などが存在する場合には、それぞれに対する治療(薬またはサプリメント)も行います。それに加えて、やる気がある方には「ラプロス(薬)」または「アミンアバスト(サプリメント)」をお勧めしております。
   
「皮下輸液」は軽症のうちは定期的には行いません。何らかの要因で食欲が落ちた時だけ行うのがよいと考えております。
   
   

重症例の治療法

重症例のパターンとしては、「以前から治療していたが悪化してきた」「状態が悪くなってから初めて来院した」などの状況が挙げられます。
   
食欲・体重が落ちていて脱水がある場合は「輸液(静脈または皮下)」が必須となります。重度の脱水の場合は入院下で静脈点滴を行い、ある程度改善したら通院の皮下輸液に切り替えます。その後も継続的な皮下輸液が必要となることがほとんどです。
   
その他の治療は軽症の場合と概ね同じですが、重症例では「嘔吐」「食欲低下」「貧血」なども生じてきますので、必要に応じてそれぞれに対する治療(マロピタント、ミルタザピン、エリスロポエチンなど)を行います。それに加えて、カプセルを投与可能であれば「アゾディル(サプリメント)」もお勧めしております。
   
   
以下は細かな話となります。
   
   

検査について

最初の検査時は血液検査、超音波検査、尿検査、血圧測定などを一通り行ったほうがよいでしょう。腎臓病にもいろいろありますので、血液検査だけでは診断できません。超音波検査で腎臓が萎縮していれば一般的な慢性腎臓病の可能性が高いですが、逆に腫大していれば腫瘍や炎症(リンパ腫、FIP、糸球体腎炎など)の可能性が高いです。また、尿検査で細菌感染が認められる場合は腎盂腎炎なども疑われます。このような特殊な腎臓病もたまにみられますので注意が必要です(特に猫が高齢ではない場合)。
   
   

治療に対する考え方

「慢性腎臓病は治らない」という認識を持つことが大切です。「血液検査の数値が下がらないから治療をやめる」「元気になったから治療をやめる」という方がたまにいらっしゃいますが、それは間違いです。「今の状態を良くするとともに今後の進行を遅らせる」ための治療ですので、数値が下がらなくても、逆に元気になっても、長期的な視野で治療を続ける必要があります。
   
大雑把に分けると、状態を悪くする要因として「高窒素血症」「低カリウム血症」「嘔吐」「貧血」などがあり、病気の進行を速める要因として「脱水」「高リン血症」「高血圧」「タンパク尿」などがあります。各々の要因に対して治療介入を行い、現状と予後の改善を目指します。治るわけではありません。
   
   

食事療法について

病期に応じた療法食を選択します。療法食には弊害もありますので、早期から強い制限食を与えるべきではありません。
   
当院で主に使っている療法食は、制限が強い順に以下のようになります。
   
キドニーケア>腎ケアBP>キドニーキープ>早期腎臓サポート
   
   

フォルテコール、セミントラについて

「フォルテコール(ベナゼプリル)」と「セミントラ(テルミサルタン)」は、タンパク尿または高血圧に対して使用する薬です。それらを呈していない場合の有効性については現時点でエビデンスは存在しませんので、慢性腎臓病だからという理由だけで使用するのは不適切です。昔はフォルテコールしかありませんでしたのでエビデンスなしで使うこともあったかもしれませんが、いまだにそれを続けている病院はどうかと思います。
   
なお、フォルテコールもセミントラも腎臓の負荷を軽減する方向に働きますので、腎臓の数値は下がるわけではなく、むしろ上がる場合がよくあります(多少上がっても問題はありません)。また、脱水がある状態で飲ませると逆に病態を悪化させるリスクがあります。決して安全な薬ではありません。定期的に診察を受けながら使用する必要があります。
   
   

ラプロスについて

ラプロス(ベラプロストナトリウム)は近年使われ始めた薬で、タンパク尿や高血圧を呈していない場合にも使用されます。有効性に関するエビデンスも出てきているようです。
   
この薬は獣医師による好き嫌いの差が激しいです。「使っているのは日本だけ」「臨床試験に問題があるのではないか」「勧めているのは東レの関係者であり、腎臓病専門の先生は否定的」など理由があったわけですが、最近は肯定的な獣医師が以前よりも増えているような気はします。
   
個人的には、「エビデンス不足」「価格が高すぎる」などの理由から、ラプロスはそこまで強くは推奨しておりません。ただ、費用的に問題がないのであればやってみる価値はあると思いますので、希望する方には処方しております。飲ませるのであれば、悪化してからではなく早期から開始したほうがよいということは言えると思います。
   
なお、ラプロスも脱水がある状態で飲ませ続けるのは危険であり、診察を定期的に受ける必要があります。末期になったら中止したほうが無難でしょう。
   
   

サプリメントについて

サプリメントとしては「アミンアバスト」「エネアラ」「アンチノールやモエギナール」などが候補に挙がりますが、どれが一番良いのかはわかりません。サプリメントに効果があるなどと書くと薬機法に抵触しますので多くは書きませんが、当院ではアミンアバストをよく使用しているという事実だけ書いておきます。
   

アゾディルについて

「アゾディル」は整腸剤のサプリメントです。窒素老廃物を代謝する菌が入っていると謳われてはいますが、菌種としては特別なものではなく、ふつうの整腸剤に入っているものと変わらないような気もします。ですから、他の安い整腸剤でもよいのではないかという気もしておりますが、個人的には高窒素血症を呈する重症例で使用することはよくあります。軽症例では使用しておりません。
   
   

治療法の取捨選択について

ここまで療法食、薬、サプリメントなどについて書いてきましたが、ではどれをやればいいのかというのが難しい問題となります。だいたいどれも費用が高いですし、猫へ何種類も投薬するのは難しかったりもします。
   
まず、最優先は食事療法ですので、猫が療法食を食べるのであれば第一にお勧めしております(食べない場合については後述)。療法食は不味いと思われるかもしれませんが、「同居猫が好んで食べようとして困る」といった話もたまに聞きますから、そこまで不味くはないと思います。
   
次の優先順位としては、「高血圧」「高リン血症」「タンパク尿」「低カリウム血症」などがあればそれらへの対応(投薬)となります。「タンパク尿」「低カリウム血症」は比較的少ないですが、「高血圧」「高リン血症」はよくみられます。予後を悪化させる要因となりますので、治療して抑えたほうがよいでしょう。
   
さて、ここまでの治療に関しては、投薬が可能で費用が払えるのであれば必ず行ったほうがよいと思います。その上で、さらに治療したいという方には「ラプロス」または「アミンアバスト」をお勧めしております。当院ではラプロスよりもアミンアバストを使っている方が多いです。
   
ラプロスを飲ませてさらにサプリメントを何種類も飲ませたいという方もいらっしゃるかもしれませんが、2つ飲ませれば2倍効くとも限らないわけで、どれか1つでいいんじゃないですかと個人的には思っております。
   
「投薬までは希望しないけど食事療法はやりたい」という方もいらっしゃるでしょうし、「療法食は食べないけど投薬なら可能」という方もいらっしゃるでしょうから、やれる範囲でやるということでもよいのではないかと思います。
   
   
次は輸液の話です。
   
   

輸液について

輸液の話は難しいので避けて通りたいところですが、せっかくなので逃げずに説明していくことにします。
   
輸液には「静脈点滴」と「皮下輸液」があり、以下のような違いがあります。
   
静脈:速効性あり、輸液量を調整可能、輸液の種類を調整可能、血管確保が必要、入院が必要
   
皮下:速効性なし、輸液量が限られる、輸液の種類が限られる、血管確保は不要、入院は不要
   
基本的には、状態が悪かったり緊急性が高かったりする場合には静脈点滴を行います。皮下輸液は短時間で簡単に行えますが、静脈点滴の半分程度の量しか投与できません。ただし「血管を温存できる」「入院しなくても実施可能」などのメリットはあります。
   
当院では、状態が悪ければ最初に2〜3日間入院させて静脈点滴を行い、その後皮下輸液に移行します。「状態がさほど悪くない場合」「入院を希望されない場合」などでは最初から皮下輸液を通院で行います。
  
  

静脈点滴で使用する輸液の種類

静脈点滴では、最初は乳酸または酢酸リンゲル液を使用し、その後に「塩分が少なめで代わりに糖が入った液(1〜3号液=維持液)」に移行します。理由としては「細胞外脱水をまず改善させる」「最初から塩分が少ない液を流すと細胞内に急速に水が入って脳浮腫などのトラブルが生じる」「塩分が多い液を流し続けると細胞内脱水が改善しなかったり心負荷が増大したりする」という理解を個人的にはしております。
   
   

皮下輸液で使用する輸液の種類

皮下輸液では基本的に乳酸リンゲル液をずっと使用します。
   
乳酸リンゲル液には、生理食塩水ほどではありませんが多めの塩分が入っています。それを投与し続けることには問題もあるのですが、総合的に最も無難なのでよく使用されています。
   
皮下輸液で維持液を使用するのはどうなのかということに関してですが、「塩分摂取を減らし、自由水を補給し、細胞内脱水を改善させる」といったメリットがあるものの、一般的には推奨されていません。理由としては「痛み」「一時的な血管内脱水」「投与部位の硬結や感染」などのリスクがあるためとされています。一時的な血管内脱水というのは「体液と平衡状態になってから吸収されるためその過程で投与直後は水とナトリウムが血管内から外に出ていくため」という理解を個人的にはしております。
   
人医療においてはかつて5%糖液の皮下輸液も行われていたくらいですから、2〜3%程度の糖を含む維持液の皮下輸液は禁忌ではないと個人的には考えております。糖はすぐに代謝されて消失するようなので、細菌感染のリスクがそこまで高いとは思えません。ただ、痛みや一時的な血管内脱水はあると思います。ですから、重度の脱水がある場合に大量に維持液を皮下投与するのは危険でしょうし、痛がったり不快感から嘔吐したりする場合にも避けたほうがよいでしょう。
   
皮下輸液で維持液を使うかどうかは病院によって異なります。個人的には積極的には使いませんが、心臓が悪い場合などに使うことはあります。それが良いのかどうかはわかりません。
    
   

皮下輸液の是非について

皮下輸液は、慢性的に脱水になっている重症の腎臓病の猫に対して継続的に行います。
   
軽度の脱水の改善または予防のためには水を飲むことが一番なのですが、水を飲んでも水和状態を維持できなくなっている場合に皮下輸液によって補充します。ただし、真水は浸透圧の関係で輸液として使えないため、薄い塩水である輸液製剤を使うことになります。
   
輸液を行うということは薄い塩水を大量に飲んでいることと同じですから、それによって塩分摂取も増え、尿量も増え、やりすぎると腎臓や心臓に過剰な負荷をかけることにもなります。皮下輸液の一部は細胞内に入るものの大部分はそのまま尿として出ていくようなイメージであり、一般的に思われているほど脱水改善効果はありません。腎臓病が軽症のうちは継続的な皮下輸液は行わず、食欲が低下している時のみ脱水予防のために行うのがよいでしょう。重症になったら継続的な皮下輸液が必要となりますが、やればやるほどよいというわけではなく、状態を維持できるくらいの量を投与するのがよいでしょう。
   
   

皮下輸液の量と回数

皮下輸液は通院または自宅で行います。
   
基本的には毎日同量を打ったほうがよいのでしょうけれども、手間がかかりますから、1回量を増やして回数を減らすということはよくやっています。
   
個人的には、週1回で済むのであれば通院を勧め、週2回以上必要であれば自宅での注射をお勧めしております。
   
   

自宅での皮下輸液について

自宅での皮下輸液を勧めるかどうかは病院によって異なります。
    
勧めたくない理由には「衛生管理の不安」「状態の変化が把握できない」などがあるのでしょう。個人的には「週何回も通院し続けるのは負担が大きすぎる」と考えておりますので、なるべく自宅での皮下輸液をお勧めしております。費用的には、自宅で皮下輸液を行うと通院の場合と比べて1/3~1/2くらいになります。
   
なお、自宅で皮下輸液ができず週2回程度通院している方もいらっしゃいます。それでもかまいません。
   
   

自宅で皮下輸液を行う場合の注意点

尿量減少や心機能低下に気付かずに皮下輸液を続けていると、肺水腫や胸水貯留を引き起こすおそれがあります。そのような場合は皮下輸液を中止しなければいけません。
   
食欲、尿量、呼吸状態などを常に観察し、異常が認められたらすぐに動物病院を受診するようにしてください。
   
   

他の疾患との関連について

・歯周病
歯周病があると腎臓病になりやすいとされています。もちろん必発ではなく、そのような傾向があるということです。
   
実際に問題になるのは腎臓病と歯周病を併発している場合です。歯周病の治療は全身麻酔下での抜歯ですが、腎臓病で麻酔リスクが高く治療できない場合が多々あります。
   
腎臓病の猫でも麻酔をかけようと思えばかけられます。麻酔から覚めないとか、すぐに死亡するとか、そのようなことはほぼありません。ただ、無事に終わったと思っても麻酔後に腎臓病が一段階進行しているといった感じで考えていただければよいかと思います。
   
歯周病のせいで痛くて食べられない場合に、腎臓病があっても抜歯することはあり得ます。「麻酔で腎臓病が進行するかもしれないけど抜歯して食べられるようになればもう少し生きられるかもしれない」といったことを天秤にかけて判断し、飼い主さんと相談して決断します。
   
同様に、腎臓病の猫が乳腺腫瘍を発症した場合も、「手術で完治が期待できるかどうか」「腎臓病と腫瘍のどちらが寿命に影響しそうか」といったことを天秤にかけて判断し、手術をすることもあり得るかと思います。
   
   
・甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症と腎臓病を併発している場合は、両方の病気を治療します。ただ、腎臓病が重度の場合は、甲状腺機能亢進症を治療すると腎機能が低下して状態を維持できなくなりますので、甲状腺の治療をあきらめて腎臓病のみを治療することになります(長くは生きられません)。
   
基本的には、腎臓病になる前の段階で甲状腺機能亢進症をなるべく早く見つけて、治療を開始することが重要となります。
   
   
・心筋症
心筋症と腎臓病を併発している場合は、両方の病気を治療します。心臓の薬や利尿薬などは腎臓にも影響しますので、慎重に使用する必要があります。また、腎臓病の治療で輸液が必要となる場合がありますが、心筋症があると輸液ができなかったり量を少なくしなければいけなかったりといった問題は生じます。心筋症は呼吸状態に関わってきますので、腎臓病と心筋症のどちらの治療を優先するかといえば心筋症ということになるかと思います。
   

最後に、治療が難しいケースについて書いておきます。
   
   

療法食を食べない場合の対応

療法食を食べない猫はけっこういます。このような猫は一般のフードも選り好みすることが多いです。療法食の味の問題ではないような気がします。
   
療法食を食べない場合は、高齢猫用の総合栄養食をお勧めしております。私が飼っている猫も療法食を食べませんので、高齢猫用の銀のスプーンを食べさせています。粒も小さいのでお勧めです。
   
   

何も治療できない場合の対応

「療法食は食べないし、薬やサプリメントは飲ませられない」という方もたまにいらっしゃいます。そのような場合は何もできません。水分を摂取させるためにウェットフードにするとか、進行してから皮下輸液を行うとか、そのくらいでしょう。皮下輸液は、食欲が廃絶してからではなく痩せてきたかなと思った時点で開始するのがよいと思います。
   
以前そのようなケースで「手の施しようがないと私に言われたから何も治療してこなかったんだ!」と後からクレームをつけてきた人がいました。手の施しようがないわけではなく、治療法を提示して全て無理だと言われたら何もできないということです。誤解なきようお願いいたします。
   
   

まとめ

慢性腎臓病の治療に際しては、「できる範囲で地道に治療を続ける」「定期的に診察を受けて状態の変化に対応していく」といったことが重要となります。

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