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【コラム】猫の慢性腎臓病の治療

 
猫の慢性腎臓病に関しては、近年様々な薬やサプリメントが販売されており、どれを使えばいいのかわからないような状況になっております。

今回は、猫の慢性腎臓病の各種治療法について解説します。
  
    
1.療法食
   
リンの摂取制限によって慢性腎臓病の進行を遅らせることができます。また、タンパク質の摂取制限によって尿毒症症状を抑えることができます。
  
以上の理由から、慢性腎臓病の猫に対してはリンとタンパク質が制限された食事が推奨されます。
 
ただし、以下のようなマイナス面もあります。
 
・タンパク質の摂取制限による筋肉量低下
  
・リンの摂取制限による血中カルシウム濃度上昇
 
近年は、腎臓病がある場合でも過度にタンパク質を制限しないほうがよいと考えられています。
  
リン制限に関しては、カルシウム濃度上昇によってかえって逆効果になる場合がありますので、制限すればすればするほどよいというわけではありません。猫の状態に応じて調整していく必要があります。
   
基本的には、腎臓病が軽度のうちは早期腎臓病用の療法食を使用し、さらに進行したら一般的な腎臓病用の療法食を使用します。
   
ネットで購入できる一般的な腎臓病用療法食はタンパク質がかなり制限されていますので、軽度のうちは推奨されません。当院ではロイヤルカナンの早期腎臓サポートを推奨しております。
  
  
2.リン吸着剤(レンジアレン、プロネフラ、キドキュア、イパキチン、リオナなど)
   
療法食を食べさせても血中リン濃度が高値の場合は、リン吸着剤の内服が推奨されます。
   
吸着剤としては、粉、液体、錠剤などがあります。
   
  
3.活性炭製剤
   
活性炭製剤は腸内で毒素を吸着する効果がありますが、最近はあまり推奨されていないようですので、当院では使っておりません。
  
  
4.フォルテコール、セミントラ
   
タンパク尿が持続すると腎臓病の進行が速まります。フォルテコールとセミントラはタンパク尿の軽減に有効な薬です。
  
ただし、猫の慢性腎臓病では、タンパク尿を呈するケースは多くはありません。そのため、これらの薬は一部の症例においてのみ有効ということになります。腎臓の数値が悪いからという理由だけでこれらの薬を使うのは間違いです。
  
なお、セミントラは血圧を下げる目的で使う場合もあります。
     
    
5.アムロジピン
   
腎臓病は高血圧を引き起こすことがあります。血圧が高い場合にはアムロジピン、セミントラなどの降圧剤の内服が推奨されます。
  
  
6.ラプロス
   
ラプロスは、腎臓の虚血、炎症、線維化などを抑制する効果があるとされている薬です。
  
  
7.アミンアバスト
  
アミンアバストは、腎機能をサポートするアミノ酸サプリメントです。
  
  
8.アゾディル  
  
アゾディルは、窒素老廃物を分解する菌が配合されたサプリメントです。
  
  
9.皮下輸液
  
腎臓病が重度の場合は、定期的な皮下輸液が推奨されます。家で行うのが望ましいですが、不可能な場合は通院でも行うことができます。
   
皮下輸液はやればやるほど良いわけではありません。腎臓病が軽度の場合には推奨されません。
   
   
10.その他の治療
  
血中カリウム濃度が低い場合は、カリウム製剤(錠剤または液体)を内服します。
   
貧血がある場合は、エリスロポエチン製剤を注射します。
   
嘔吐がある場合は、制吐剤(セレニア)を内服または注射します。
   
食欲不振がある場合は、食欲増進剤(ミルタザピン)を内服します。
   
   
11.ホメオパシー、ホモトキシコロジー
  
ホメオパシーやホモトキシコロジーは非科学的なものなので一切勧めません。科学的に効果が実証されているとか腎不全に効くとか謳っている動物病院があるようですが、科学界ではそのようには見なされておらずプラセボ効果を越えるものではないと結論付けられています。「自分が腎臓病になったとしてもホメオパシーをやりたい」というお考えの方であれば止めはしませんが、「自分はやらないけど動物はホメオパシーで」というのは矛盾している気がします。それから「ホメオパシーは効かなそうだけどホモトキシコロジーなら効きそう」と考える方もいらっしゃるようですが、そういうものでもありません。
   
   
12.再生医療
  
再生医療と聞くとiPS細胞などの夢の治療法みたいな印象を受けるかもしれませんが、そうではないことにまず注意が必要です。
   
獣医療において行われている再生医療は、脂肪幹細胞の注射です。脂肪幹細胞を注射しても腎臓の細胞には分化しませんが、炎症や線維化を抑制するサイトカインを分泌するため、その効果を期待した治療ということになります。慢性腎臓病に関しては、残念ながらエビデンスは乏しいようです。やって悪いことはありませんが、毎回5万とか10万とかかけてまでやる価値はあるのかという問題になると思います。個人的には、同じお金をかけるのであれば、ここまで書いてきた他の治療法を地道に行ったほうがよいのではないかと考えております。
 
  
急性腎障害と慢性腎臓病
  
猫の腎臓病には「急性腎障害」と「慢性腎臓病」があります。
  
急性腎障害:急激に腎機能が低下した状態
      可逆的な損傷であれば回復する可能性がある
      可逆的な段階で治らないと慢性腎臓病に移行する
  
慢性腎臓病:長期間にわたって腎機能の低下が続いている状態
      不可逆的な損傷であり、壊れた部分は回復しない
      進行を遅らせることを目的として治療を行う
  
腎臓の数値が高い場合は、急性腎障害なのか、慢性腎臓病なのか、両方なのか、ということを判断しなければいけませんが、これがなかなか難しいです。
    
例えば、すでに慢性腎臓病を発症している猫においてある時点で急激に体調と腎臓の数値が悪化したような場合は、慢性腎臓病と急性腎障害の併発が考えられます。その場合は、治療を行えば急激に悪化した部分に関しては元に戻る可能性があります。
   
腎臓の数値だけを見ていても急性腎障害がどの程度生じているかはわかりませんので、いろいろな治療(薬、サプリメント、輸液、その他の怪しい治療など)を開始したタイミング次第では、その治療によって慢性腎臓病が治ったかのような錯覚が生じます。しかし、実際には輸液や時間経過によって急性腎障害が回復しただけなのかもしれません。
   
つまり、治療効果は慎重に判断しなければいけないということです。幹細胞治療で慢性腎臓病が治ると言っている獣医師もいるようですが、そのようなことはありません。
  
なお、将来的に期待されている「AIM製剤」でも慢性腎臓病を治すことはできません。基本的には急性腎障害の治療のための薬であると考えられます。慢性腎臓病においても投与し続ければ腎機能を維持できるようですが、費用や供給量の問題で現実的に可能なのかどうかはわかりません。
 
    
まとめ
  
治療法の中で、最優先で試みたほうがいいのは食事療法です。療法食は各社から販売されていますので、どれか食べるものがあれば続けていただくのがいいでしょう。
  
それ以外の治療法は、猫の状態、病院の方針、飼い主さんの意向などによって異なってきますので、どれが正解ということはありません。
  
慢性腎臓病を治すことはできませんが、地道に治療を行うことによってより永く生きられるようになるとお考えいただければと思います。
  
  
【コラム】当院における猫の慢性腎臓病の治療

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