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院長コラム
2023/10/25
【コラム】猫の避妊・去勢

今回は、猫の避妊・去勢についてまとめました。
   

避妊・去勢の目的

雌猫の卵巣(+子宮)を摘出することを「避妊」、雄猫の精巣を摘出することを「去勢」と言います。それらの手術の目的として、以下の3点が挙げられます。
  
・繁殖の防止
望まれない繁殖を防ぐことができます。猫は際限なく妊娠・出産を繰り返しますので、人為的にコントロールしなければいけません。
  
・発情や問題行動の抑制
「雌猫の鳴き声」「雄猫の尿スプレー(マーキング)」「雄猫の縄張り争い」などの行動を抑制することができます。
  
・病気の予防
雌猫において「子宮疾患(子宮水腫、子宮蓄膿症)」「乳腺腫瘍」の発生を予防することができます。乳腺腫瘍の予防効果は1歳齢未満での手術限定です(6ヶ月齢未満で1/11、12ヶ月齢未満で1/7に発生率が低下)。乳腺腫瘍を予防したい場合は1歳齢未満で避妊手術を行う必要があります。
  
   
個人的には、「望まれない繁殖の防止」「発情関連行動の抑制」が猫の避妊・去勢の主な目的であると考えております。
  
  

猫の避妊・去勢のデメリット

猫の避妊・去勢のデメリットとして、以下の3点が挙げられます。
   
・太りやすくなる
代謝の低下、食欲の亢進によって太りやすくなります。
    
・手術による身体への負担、リスク
全身麻酔下の手術となりますので、身体への多少の負担があります。また、リスクは低いですがゼロではありません。
   
・費用
手術費用が掛かります。費用は病院によって異なります。
   
   
太りやすくなるから避妊・去勢をしたくないという方は少ないと思います。避妊・去勢によって全頭が太るわけではありませんし、食事に気を付けて太らせないようにすることは可能です。
   
手術の負担やリスクを気にされる方は多いと思います。身体への負担は一般的に想像されているよりは小さく、翌日には普段通りの状態に戻っていることが多いです。リスクに関しては、どのような麻酔や手術であってもゼロとは言えませんが、安全に配慮した病院で慎重に手術を行えばリスクは低いと考えていただいてよいでしょう。
   
「食道炎」「急性腎障害」「一過性心筋肥厚」「先天性の血液凝固障害に伴う出血」などは不備がなくても稀に生じる可能性はあります。当院では幸いなことに、飼い猫の避妊・去勢で何らかの事故が起きたことは一度もありません。野良猫では横隔膜ヘルニアによる死亡事例があります。
   
   

猫の避妊・去勢は行ったほうがよい?

上記を踏まえて、猫の避妊・去勢を行ったほうがよいかどうかを考えてみます。
   
①屋外飼育の場合
猫が家の外に出る場合は、避妊・去勢は必須、というか義務です。避妊・去勢を行わないと以下のような問題が生じます。
   
・雌猫の妊娠・出産
未避妊猫は必ず妊娠します。
   
・怪我・事故・感染症
交尾や縄張り争いによる怪我・事故・感染症(猫エイズウイルス、猫白血病ウイルス)のリスクがあります。
   
・近所迷惑
雌猫の鳴き声、雄猫のけんかなどが近所迷惑となります。
   
   
雌猫に関しては、避妊の必要性に異論はないでしょう。
   
雄猫に関しては、出産はしませんが、発情時の行動が近所迷惑となります。家の外に出さないのがベストですが、外に出す場合は最低限去勢を行ってください。一般的に、去勢された雄猫は徘徊やけんかをしなくなり、穏やかに過ごすようになることが多いです。けんかを繰り返していると高確率で猫エイズウイルスに感染し、寿命も短くなってしまいます。猫自身の健康のためにも去勢を行っていただいたほうがよいでしょう。
   
ちなみに、野良猫に餌を与える場合も避妊・去勢は義務であると考えております。軽い気持ちで餌を与えていると繁殖して大変なことになってしまいます。そこまでの責任を負いたくないという方は最初から餌を与えないでください。
   
   
②屋内飼育の場合
屋内単頭飼育であれば繁殖の心配はありませんが、以下のような問題が生じます。
   
・雌猫の鳴き声
未避妊の雌猫は、数週間の周期で頻繁に発情を繰り返します。発情中は大声で鳴くことが多いため、飼い主さんや近所の方のストレスになります。また、発情は猫自身にとってもストレスになります。
   
・雄猫の尿スプレー+鳴き声
未去勢の雄猫において、尿スプレー(マーキング)行動がよくみられます。また、外の野良猫に反応して大声で鳴く行動もみられます。
   
   
避妊・去勢を行わずに屋内で猫を飼い続けるには相当の忍耐が必要です。これは実際に飼ってみるとわかると思います。病院から何も言われなくても手術を希望される方が多いです。
   
未避妊・未去勢の状態は、猫にとって良いわけではありません。発情は猫自身にとってもストレスになります。避妊・去勢を行ったほうが猫も人も穏やかに暮らしていくことができるでしょう。
   
「鳴き声や尿スプレーを我慢できるなら手術しなくていいですか?」と聞かれることもあります。しなくてもかまいませんが、ストレスが減るからしたほうがよいと答えております。
   
「自然のままがよい」「人間のエゴだ」「健康な体にメスを入れるのが云々」とか、かっこいい台詞を見聞きすることもありますが、個人的には全く共感いたしません。それなら猫を飼うなという話になります。
   
   

避妊・去勢の前に行っておくべきこと

避妊・去勢を行う場合は、事前に混合ワクチンを接種しておく必要があります。
   
発情が来て鳴くようになってから急いで手術してほしいと依頼されることもありますが、当院ではワクチン未接種の場合は基本的にお断りしています。中には未接種で手術してくれる病院もあるかもしれませんが、お勧めはしません。病院には感染症の猫が来院することもありますので、ワクチン未接種だとリスクが高いと言えます。
   
避妊・去勢を行いたいけど動物病院に連れていったことがないという方は、お早めにお問い合わせください。
   
   

避妊・去勢を行う時期

避妊・去勢を行う時期としては、6ヶ月齢以降を推奨している病院が多いです。2〜4ヶ月齢頃にワクチンを複数回接種し、その後に手術を行うのが一般的です。
   
一方で、もっと早い時期(2〜3ヶ月齢)の手術を推奨している病院もあります。早い時期に行っても問題はありませんが、かといって特別な事情がなければあえて早く行う必要性もないと個人的には考えております。
   
雄猫に関しては、尿スプレー行動が習慣化するとその後に去勢を行ってもおさまらない可能性がありますので、どうせやるのであれば習慣化の前にやったほうがよいとは思います。
   
雌猫に関しては、「1歳齢未満(特に6ヶ月齢未満)で避妊すると将来的な乳腺腫瘍の発生率が低下する」という研究結果がありますので、どうせやるのであれば1歳齢未満がよいと思います。
   
以上の理由から、当院では5~6ヶ月齢以降で早めの手術をお勧めしています。ただし、この時期を過ぎると手術ができなくなるというわけではありません。必要な状況になった時点で手術を行うことももちろん可能です。
   
   

避妊・去勢の一般的な流れ

避妊・去勢を行う際には、まず診察および術前検査を行います。そして、異常がなければ手術に進みます。
   
・術前検査
麻酔や手術を安全に行えるかどうかの確認のために、各種検査(血液検査、X線検査、心電図検査、凝固系検査、尿検査、超音波検査など)を必要に応じて行います。
   
・去勢手術の流れ
去勢手術では、皮膚を切開し、精巣を摘出します。術後は日帰りまたは入院となります。抜糸は不要です。
   
・避妊手術の流れ
避妊手術では、皮膚と腹筋を切開し、卵巣(+子宮)を摘出します。術後は日帰りまたは入院となります。後日の抜糸が必要な場合があります。
   
・退院後の管理
エリザベスカラーまたは服によって術創の保護を行う場合があります。内服薬(抗菌薬、鎮痛薬など)を処方される場合があります。
   
   
術前検査や手術法は病院によって異なります。当院では以下のような方法で行っています。
   
術前検査:血液検査のみ
去勢手術:日帰り
避妊手術:1泊入院、抜糸なし
退院後の管理:術創保護なし、内服薬なし
   
   

病院による違いについて

猫の避妊・去勢はほぼすべての病院で行われていますが、病院によって以下のような点が異なります。
    
・術前検査
全く検査を行わない病院もありますし、多くの検査を行う病院もあります。基本的に、避妊・去勢は若くて健康な猫に対する手術ですので、検査を行わなくても問題が生じる確率は低いです。ただ、確率が低いとはいえ一定の割合で病気が存在することも事実です。一方で、検査を行っても全ての病気を検出できるわけではありませんし、手術リスクがゼロになるわけでもありません。検査を増やすほど費用も高くなります。多くの検査を行うことが絶対的に正しいというわけではなく、リスク低下と費用負担のバランスを考慮して各病院で判断することになります。
   
当院では血液検査のみ行いますが、肝臓や腎臓の数値の異常がみられることはたまにあります。そのような場合は「中止」「延期」「事前に点滴をしてから実施」などを飼い主さんと相談しています。
   
重大な病気(心臓・腎臓・脳などの先天性異常、横隔膜ヘルニア、猫伝染性腹膜炎など)も稀にみられますが、それらを発見するためには問診や身体検査も重要となります。身体検査で何か疑わしい所見がある場合は、通常よりも詳しく検査を行ったほうがよいでしょう。また、家での様子で気になること(元気や食欲がない、水をよく飲む、呼吸が荒いなど)があるようでしたら、些細なことでも必ず獣医師に伝えるようにしてください。
   
   
・卵巣のみ摘出か、卵巣子宮摘出か
避妊手術の術式として、「卵巣摘出」「卵巣子宮摘出」の二通りがあります。
   
避妊手術においては、卵巣を確実に摘出することのみが重要となります。卵巣がなければ卵子やホルモンが産生されませんので、妊娠や発情行動は生じなくなり、子宮は萎縮して病気にもならなくなります。卵巣がなければ子宮の病気になることは絶対にないと考えていただいても差し支えありません(すでに病気になっている場合は除く)。
   
ですから、子宮を摘出するメリットは何もなく、かといって残しておくメリットも何もないということになります。個人的には、簡単に摘出できるならすればよいし、摘出できないならしなければよいという程度に考えております。当院では、最近は卵巣のみ摘出する場合が多いです。
   
これは野良猫でも同様です。「卵巣しか摘出されなかったせいで野良猫が妊娠出産した」みたいなネット記事を見たことがありますが、それはその獣医師の考察が間違っています。卵巣を摘出する際は卵巣と子宮の間で離断しますので、仮に卵巣を取り残したとしても正常に妊娠出産することはあり得ません。野良猫の子宮は脆くてちぎれる場合がありますので、無理して切除する必要はないと個人的には考えております。
   
   
・結紮糸を使用しない手術、腹腔鏡手術など
特殊な手術法として、「結紮糸を使用しない手術」「腹腔鏡による手術」などがあります。
   
結紮糸を使用せず血管シーリングシステムを使用することも可能です。結紮糸は異物であり、炎症を引き起こす可能性がありますので、使用しないで済むのであればそれに越したことはありません。ただし、猫では結紮糸に起因する炎症は極めて稀ですのであまり考える必要はないということが言えます。
   
腹腔鏡は、傷口の小ささや痛みの軽減が期待できる手術法です。ただし、猫の避妊手術に関しては、「三ヶ所くらい開ける切開の長さを足せば通常手術の長さと変わらない」「手術時間が余計にかかる」「費用が高い」などの理由から、腹腔鏡を使うメリットは皆無であると思われます。
   
   
・麻酔、鎮痛薬、輸液など
「麻酔法」「鎮痛薬や輸液投与の有無」などは病院によって様々であり、安全な麻酔に対する意識も獣医師によって様々です。これらは非常に重要なところではありますが、外部から判断するのは難しいのではないかという気がします。
   
   
・入院の有無
避妊・去勢ともに日帰りで行うことも可能ですが、多くの病院は1泊入院で行っているのではないかと思います。どちらが正しいということはありません。
   
   
・内服薬の有無
抗菌薬を処方する病院と処方しない病院がありますが、基本的には手術翌日以降は不要、というか使うべきではありません。中にはコンベニアを使う病院もあるようですが、耐性菌に対する意識が低すぎて論外です。当院は手術直前に1回のみ抗菌薬を注射しております。
   
野良猫の手術でコンベニアを打てと指示してくるボランティアもいますが、猫風邪が酷い場合を除きお断りしております。
   
   
・手術費用
病院によって手術費用は異なります。平均的には、総額(術前検査、入院費など込み)で去勢が2万円程度、避妊が3万円程度と思われます。術前検査、手術法、麻酔法、入院の有無、その他様々な要因が関連してきますので、高ければぼったくりとは限りません。
   
   
どの病院が安全なのかというのは正直わかりません。費用が高い病院や大きめの病院なら安全とも限りませんし、小さめの病院でも良かったり悪かったり様々かと思います。獣医師の説明が丁寧で親切かどうかとかも全く関係ありませんね。高すぎる病院とか安さだけを売りにしている病院とかはやめたほうがよいとは思っております。
   
当院は、「安全性」「動物へのストレス」「手間」「費用」など様々なことを勘案した上で手術の方法を決めております。当院の方法が最善だとは思っておりませんが、保護猫ボランティアの人からは「他院で手術するとしばらく元気がないけど当院で手術するとすぐに元気になる」とはよく言われます。おそらく麻酔、鎮痛、輸液などの違いによるものと思われます。
  
  

まとめ

猫を避妊・去勢せずに飼うのは現実的に難しく、また、猫にとっても良いことではありません。なるべく早い時期に手術を行っていただくことをお勧めします。
   
手術に際しては、なるべく安全に、安く、というご希望があるかもしれませんが、病院によって方針は様々です。飼い主さんのお考えに合った病院を選んで相談していただくとよいでしょう。

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