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院長コラム
2016/02/12
【コラム】抗生物質について

 
今回は抗生物質についての話です。長い上にやや難しいですが、最後までお読みいただければ幸いです。

 
抗生物質は細菌(bacteria)の増殖を抑える薬です。皮膚、呼吸器、消化器、泌尿器、眼などにおける細菌感染症の治療のために、内服、注射、点眼などの方法で投与します。どのような時に使うかというと、細菌感染が確認されたかあるいは疑わしい場合、今後感染する可能性が高い場合、手術時など予防的に必要な場合、などです。人医療において風邪には効かないと言われているように、細菌以外の微生物に対しては効果がありません。

 
抗生物質には多くの種類があります。どの薬でもいいというわけではなく、使う場合には以下のような点を考慮して選択します。
まず、感染している菌に対して有効かどうかという点です。菌の種類は様々で、それぞれの菌に対して効きやすい薬と効きにくい薬があります。何の菌に感染しているのか不明な場合も多いですが、なるべく予測して効きやすそうな薬を選択します。または、何の薬が効くかを調べるために菌を培養して感受性試験を行う場合もあります。
次に、薬が目的とする臓器に行き渡るかどうかという点です。薬は吸収された後に各臓器へ移行していきますが、分布の仕方が薬の種類によって異なります。投与しても目的の臓器に行き渡らなければ効果を発揮しません。例えば、肺や前立腺などへ移行する薬は少なく、それらの部位の感染症では薬の選択肢が限られてきます。
あとは、副作用のリスクがどの程度あるのか、実際に投薬が可能かどうか、などの点も考慮します。

 
抗生物質は有用な薬ですが、なるべく使わないほうがいい薬でもあります。理由は、耐性菌の発生という問題があるためです。抗生物質を使っていると、耐性を持った菌が増えて蔓延していきます。耐性菌は人医療だけでなく動物医療や畜産業においても生み出されており、動物で生じた耐性菌が人に感染する可能性もあります。人の病院では昔に比べて抗生物質の使用が制限されているようですが、動物医療ではそのような話はあまり聞きません。何でもかんでも抗生物質という動物病院もありますし、獣医師の意識は全般的に高くはないように思われます。

 
抗生物質を使うにあたって重要なのは、必要である時はしっかりと使い、必要でない時は使わないということでしょう。投与量や回数を減らせば耐性菌が発生しにくくなるかというと、そういうわけではありません。むしろ中途半端に使うことによって感染は治らず、耐性菌も発生しやすくなります。耐性を怖れて少なく飲ませようとしたり途中でやめたりする方がいらっしゃいますが、自己判断は論外です。最適な量を処方していますので、指示通りに飲ませてください。ただ、飲ませられなかったり、飲ませて下痢や嘔吐が生じたりした場合は薬を変更しますのでご連絡ください。

 
疾患によっては長期間抗生物質を使う場合もあります。皮膚炎では最低2~3週間は使いますし、中耳炎や腎盂腎炎などで1ヶ月以上使う場合もあります。中途半端にやめてしまうと治りきらないで再燃するという結果にもなりかねません。
一方で、抗生物質を使い続けるのがいいというわけでもありません。猫の鼻炎では細菌の二次感染治療として抗生物質を使いますが、完治はしませんので、症状がひどい時だけ一時的に使うというスタンスが望ましいかと思います。下痢や外耳炎などで数年間にわたって抗生物質を飲ませ続けているという患者さんが転院してきたこともありますが、それもさすがにどうだろうかと思います。慢性的な細菌感染には根本的な原因がある場合が多いです。一時的な使用で治らなければ根本的な原因への対処(手術なども含む)や抗生物質以外で菌を抑える方法(鼻炎であればサプリメントやネブライザー、皮膚炎であればサプリメントや薬浴など)を考慮する必要があります。

 
使用する抗生物質の種類に関しては、基本的に動物医療ではあまり強い薬は使うべきではないだろうと思われます。人医療優先が原則です。
私はニューキノロンやメトロニダゾールといった薬も使いますが、なるべく使わないようにはしております。ニューキノロンは1日1回投与で大多数の菌に効く便利な薬なのですが、耐性が生じやすく、昔に比べて効かなくなってきたという話も聞きます。メトロニダゾールは嫌気性菌によく効く薬ですが、人医療でも重要な薬のようですので極力避けるようにしております。第3世代セフェム系の経口薬も使っておりません。コンベニアという2週間効く注射薬は状況に応じて使っております。これは申し訳ありませんが、投薬困難な症例でどうしても使わざるを得ない時があります。

 
抗生物質の使用自体が微妙な疾患としては、猫の膀胱炎や犬の急性下痢などが挙げられます。
猫の膀胱炎は細菌性と無菌性に分かれますが、ほとんどが無菌性です。無菌性膀胱炎は何もしなくても数日で治ります。そのため、抗生物質を使って良くなったという勘違いが生じやすいのですが、実は自然治癒しただけということがよくあります。高齢猫では細菌性膀胱炎もみられますが、必ず尿検査で細菌の存在を確認してから抗生物質を使わなければいけません。また、尿中に細菌が存在しても炎症が起きていなかったり無症状だったりする場合は治療対象にならないのですが、そのような状況で無意味に抗生物質を使う病院も多いと思われます。
犬の急性下痢では、特定の抗生物質を飲ませるとだいたいすぐに治ります。そのため細菌性腸炎であると考えられがちですが、実際のところ、食中毒を引き起こすような病原菌に感染して下痢になる犬はさほど多くはないと思われます。抗生物質で治るというのはおそらく、新たに感染した病原菌を死滅させているわけではなく、元から存在していてなんらかの理由で二次的に増えた悪玉菌を減少させているだけだろうと思われます。その点に関して抗生物質は整腸剤よりも即効性はありますが、使わなくても少し遅れて治ります。早く治る上に飼い主さんも安心するのだから使わない理由がないと考えるか、副作用や耐性菌の問題もあるのだからむやみに使うべきではないと考えるか、獣医師によって異なりますが、圧倒的に前者が多いです。そのほうが患者受けも良いのかもしれませんが、使わなくても治るなら使わないほうがいいだろうというのが私の見解です。

 
抗生物質に関しては、自分の患者さんを治すことと社会全体への影響の両方を意識して、最適と思われる方法で使っていきたいと思っております。飼い主さんにおかれましては、抗生物質は安心のために不必要に使う薬ではないということと、いざ使う時はしっかりと使わなければならないということをご理解いただければと思います。

 
最後までお読みいただいた方はありがとうございました。
 
 
2021/07/22 追記

ここ数年、抗生物質の使用を制限しようという動きが獣医業界でもようやく出てきています。具体的には、皮膚炎や腸炎などに関する話です。
 
 
皮膚炎に関して
細菌性皮膚炎(膿皮症)に対して抗生物質を使うのは妥当な治療法ではありますが、近年は本当に耐性菌が増えていて効かなくなっているという現実があります。そのため、極力抗生物質は使わずに殺菌性シャンプーによる薬浴を行うことが推奨されています。家で頻繁にシャンプーをするのは大変ですが、可能であればその方法で頑張ってみていただきたいです。
 
   
腸炎に関して
腸炎に対して抗生物質が使われることは多いですが、ほとんどの急性腸炎は抗生物質を使わなくても治ります。また、ほとんどの慢性腸炎は抗生物質を使っても治りません。ですから、急性でも慢性でもむやみに使うべきではないという結論になります。状態が悪い時のみの使用に限定するのが望ましいでしょう。個人的には、下痢の症状で簡単に抗生物質を処方する病院は信用ならないと思っております。
昨年、海外の専門医グループから慢性腸症に対する抗生物質の使用を推奨しないという提言が出たようです。以前は『抗菌薬反応性腸症』などという名称の病気があったのですが、その名称も使われなくなりつつあります。私は以前から不愉快な名称だなと思っておりました。
  
 
上記のような変化の流れがありますが、抗生物質使用における獣医師の意識はやはり高くはありませんから、各々の病院でどれだけ実践されているのかは不明です。「どうでもいい時に抗生物質を使わないようにすると、本当に必要な時に効きが良くなる」ということが言えますが、そのためには適正使用を心掛けている動物病院を普段から選ぶことが重要となります。重病になってから転院しても遅いです。
   
   
当院では昔と比べて抗生物質を使わなくなりましたが、使わなくても全然困りません。また、感受性検査の結果を見ると耐性菌が少なくなっているようであり、効果も出ていると思われます。

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